第2学期 始業式 校長 古賀誠子
「旅人をもてなすことを忘れてはいけません。そうすることで、ある人たちは、気づかずに天使をもてなしました。」 ヘブライ人への手紙 13;2
まだまだ暑い日が続いていますが、少しだけ朝夕が涼しくなり、季節が確実に進んでいると感じます。新しい生活に慣れることに忙しかった1学期が終わり、2学期からは自分の目標に向かって、集中できるよい季節です、皆さんこの季節を最大限利用しましょう。
皆さんの夏休みはいかがでしたでしょうか。暑い中の課外、部活動、スタディーキャンプ、ミラクルチャレンジ、アジア派遣、ホームレスの人たちのための美野島教会での炊き出し、仲間と切磋琢磨しながら、それぞれが自分の打ち込みたいものに打ち込んでいる姿をたくさん目にしました。あなたは成長しましたか?「はい」と言える人がこの中にはたくさんいることと思います。この先、さらによい結果がでると信じています。
私は、21名の生徒と共に、7月26日から8月1日までインドネシアに行ってまいりました。姉妹校レジーナパシスへの訪問です。長い間、実現させたいと思ってきたプログラムでしたが、治安や衛生環境など、様々な課題があり、およそ10年間あたためてきました。オンラインで交流を続けてきましたが、実際に行ってみて、直接会って交流することに勝ることはないと決断し、たくさんの先生方にご協力いただきながら、プログラムを創り上げ、それに多数の応募があり、実現したことはとても嬉しいことでしたし、福岡海星にとっても大きなチャレンジの研修旅行となりました。
インドネシアは、東南アジア南部に位置する共和制国家です。5,110kmと東西に非常に長く連なり、赤道にまたがる地域に1万7000を超える島々を抱える、世界最大の群島国家と言われています。人口は2億8000万人を超える世界第4位の規模であり、また世界最大のイスラム教徒を有する国家としても知られています。それは、国民の87%に相当します。同国の一部であり中心地ともなっているジャワ島は人口が世界で最も多い島であり、この島には国の人口の半分以上が存在しています。
私たちが訪問した街もジャワ島にあるジャカルタという大都市でした。かつては首都でしたが、今はもう首都ではありません。現在は、首都は法的には、カリマンタン島東部の「ヌサンタラ」に移転しています。
本校の生徒たちにとって、インドネシアの旅は、大きなカルチャーショックであったようでした。でてくる食べ物は鶏肉ばかりで、右の手でそのまま食べ物を食べることもある、夕飯はほとんど外食、トイレ環境、住環境。日本のトイレは世界一と言いますが、特にインドネシアのトイレの環境は深刻でした。生活してみて、「本当のインドネシアがよく見える」と言った生徒がいました。同時に、「インドネシアから日本がよく見える」とコメントした生徒もいました。しかし、いかなる環境にあったとしても、それを超える「よきもの」が確かにインドネシアにはあった。
インドネシア語が公用語であるにもかかわらず、すべて英語で展開される授業。生徒たちの高い英語力。英語を到底外国語として学んでいるレベルには思えませんでした。学校の授業はとても魅力的でした。私が参観した授業の中には、日本とインドネシアの違いを細かく分析しているものもありました。本校生徒は、「学校が7:00に始まる」「インドネシアの人は、バイクに4人も乗って運転している」「地面にそのまま座って、食べ物広げてご飯食べる」と発言しました。担当していた先生からのコメントは、「ん?それが何故おかしい?」すなわち、それぞれの持つ文化や生活習慣には、優劣がないということを暗に指摘されたのです。真に異文化を受け入れると言うことは、相手を「あるがままに受け入れること」、多様性を自分の中から排除せずに、「豊かさ」と感じることにあります。
話は変わりますが、みなさんは、「時間銀行」という言葉を知っていますか。「時間銀行」とは一般に、「時間」を交換単位として、「銀行」に参加するメンバー間でサービスのやりとりをする仕組みです。メンバーはあらかじめ、「銀行」に自分が提供できるサービスを登録します。誰かから依頼されたサービスを提供すると、かけた時間分の「時間預金」ができ、依頼者は同じ時間数を自分の預金から差し引かれます。例えば、Aさんが、Bさんに1時間家庭教師をすると、Aさんは1時間預金ができる。その預金で別のメンバーに1時間マッサージを頼むこともできる。一方、1時間の家庭教師を依頼したBさんの父親も、メンバーに依頼された引っ越しの手伝いを3時間すれば、差し引き2時間の預金ができる。そうやってメンバーが多方向的に助け合うのが、時間銀行です。「お金がなくても、より豊かな生活ができる環境を築こう」というのが、時間銀行の考え方です。合理的に聞こえます。
では、わたしたちを引き受けてくれた学校、そしてホストファミリーは、わたしたちのお世話をすることによって、何時間の預金(時間)が出来たのか。明らかに、ゼロです。ここで私たちが受けたサービスについてまとめてみました。どこで出会っても優しく微笑みかけてくれたシスター方、病人がでたときは気分がよくなるまで最後まで付き添ってくださった。修道院では、丁寧にその歴史について説明、お茶とお菓子で手厚くおもてなしをしてくれました。ステラマリスの生徒として、わたしたちひとり一人と丁寧に握手をしてくださったご高齢のシスターもいらっしゃいました。ホストファミリーに不幸があって、ホストを変えなければならない状況が発生した時に、「行かないで」と涙を流したホストシスターの熱い想いにも感謝しました。問題が起きたときに、マラン校長先生は最後まで時間をかけて向き合ってくださいました。バディーの皆は、お昼の時間も、授業中もずっとそばにいてくれました。先生方は、私たちのために興味深い授業を練って作ってくださった。私たちのバスが入りやすいように手筈を整えてくださったセキュリティーチームの方々もいました。時間にすればかなりの時間数になりますが、彼ら、彼女たちは自分の通帳に時間預金することは考えていません。見返りを求めないおもてなし、優しさ、心を動かされた日々でした。そして、それが、まさに、私が考える「よきもの」でありました。
人のために時間をかけること、それは「自分に時間が余ったからやる」ということではありません。目の前にいる友のために、「そうしないではいられない気持ち」になるからです。つまり、インドネシアの人々は、わたしたちのために、そうしないではいられなかったのです。そこに、真の人と人との絆が生まれます。だからお別れするとき皆、涙が出たのでしょう。わたしたちは、そこから平和への階段をのぼり始めます。
目の前にいる友人のために、見返りを求めず、自分の時間を使うことができる人になりたいと考えます。1年生から3年生まで、助け合って、励まし合って、互いを思いやって過ごしたインドネシア研修旅行、私たちの中にもあらたな友との絆が生まれました。これからも大切に。
2学期は「海星祭」から始まります。収益金は、修道会を通して、世界の最も困っているところに届けられます。「そうしないではいられない」という気持ちを持って、隣人のために奉仕するあなたでありますように。

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